傷ついた身体を冷たい自室のベッドに投げ出し、
ナタクの頭に浮かんだのは、他ならぬ悟空の笑顔だった。
『あいつに会いたいな……』
悟空といる時だけが、自分が生きているという感触が得られた。
眩しい金色の瞳に見つめられるだけで、
身体が温かくなるのを感じる。
他愛無い話をするだけで、無性に楽しくて、
笑っている自分が不思議で、それでいて妙に心地よかった。
父親といる時の自分は、息もしていない人形。
悟空といる時の自分は、朝露を浴びた新緑。
そう考えてふっと思い出し笑いをする自分がいる。
ナタクは悟空のことを考えるだけで、幸せになれた。
「……悟空……俺のことが好きなら、今すぐ会いに来いよ……」
薄暗い天井を見上げながら無意識にそう呟く。
すると……
「……よんだ……?」
聞きたくてたまらなかったはずの声を耳にして、
思わず辺りを見回す。
「どっこ探してんだよ?
ここだよ……ここっ……!」
「……なっ、お、お前っ、なんでそんなとこに?」
ナタクの背後から、悟空は勢いよく抱きついた。
「えっとね、捲兄ぃがよばいしに行って来いっていうからさ、来ちゃった」
「夜這いって、お前、意味わかって言ってんのか?
え?夜、布団の中に遊びに行くことだろ?
いつも来てんじゃんか……何言ってんの?いまさら……」
「だから……あのねぇ……」
呆れた表情でため息をつくナタクに、悟空は目を輝かせて今日の出来事を話す。
「今日さ、俺、お化け屋敷っていう所に行ってきた!
おっきなお城で、優しいばあちゃんと美味しいごちそうがあって……」
「お化け屋敷に……ばあちゃんとご馳走??」
「うん! んでもって、ナタクの綺麗な絵が飾ってあったんだ!」
「……オレの絵が……?
ったく、訳わかんねぇなぁ……お前の言ってること……」」
「じゃあさ、これから一緒に行ってみねぇ?」
「これからか?」
「うん。 これから! 一緒に!!」
ナタクは悟空の言う事に不思議と逆らえない。
思いがけず悟空に会えた嬉しさと、
自分の絵が飾ってあったということに興味も覚えたため、
ナタクは悟空に促されるままに、その城へと向かう事にした。
赴いてみると、そこは有名な閻魔家の城で、
普段は神々があまり近寄りたがらない場所だった。
悟空が昼間この城を訪れ、あまつさえもてなしを受けたなど、
ナタクには信じられない事だった。
「お前、ホントにここに入ったのか?」
「うん。 いつでも遊びに来ていいってばあちゃんが言ってたから、
一緒に遊びに行こうぜ!」
「……遊びにって……ま、いいか……」
悟空の屈託ない表情を見ていると、自分の些細な心配事など
どうでもいいことのように思えてくる。
促されるままに足を踏み入れた城の一室には、
驚いたことに、自分と瓜二つの肖像画が掲げられていた。
「ちょっ……これ、俺? ……なわけないよな?」
「うん。 俺も最初はナタクだと思った。
けど、ばあちゃんの話では、この絵はお城のお姫様だっていう話だよ?」
「……お姫……さま……?」
黙って見上げるその絵の中の少女は、とても懐かしい微笑を浮かべ、
まるで二人がこの城にやって来たことを歓迎でもしているかのように
薄く光り輝いて見えた。
「俺、この絵大好きだ! 綺麗であったかくて、何か見てるだけで安心する。
それに、今日の昼はナタクに会えなかったけど、
この絵を見てるだけで、お前に会えたような気がして、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」
何の迷いもなくそう言い切る悟空に、ナタクは胸が小さく高鳴るのを感じる。
「あれ? ナタク熱あんの?顔赤いぞ? 身体はこんな冷て〜のにサ……」
「ちょっ、おまえっ……」
ナタクがうろたえるのもお構いなしに、
悟空はその着物の胸元へ、するりと自分の手を滑り込ませる。
「どこ触ってんだよっ! はなせっ!」
「やぁ〜だ! だって、ナタクの肌、スベスベで気持ちい〜んだもん」
「ちょ、やめろって!くすぐったいだろっ?」
「え?こんぐらいでくすぐったいのか?」
あっという間にナタクの着物は、はだけ落ちる形になっていた。
そして露になった素肌に目をやった悟空は、
それまでふざけて触っていた手を、不意に止めた。
「なんだ?どうかしたか?」
「……うん……
なぁ、この傷はどうしたんだ?」
「ああ、これ? 今日下界行った時に付いたんじゃあねぇかな?」
「……じゃなくてさ、ここんトコの……これ……」
「……あ……?」
胸元にぽつりと紅く、ひとつの跡がついていた。
「さぁ、多分、俺がさっき治療受けた時に、なんかのはずみで付いたんじゃねぇ?」
「……ちがうよ……」
「……はぁ……?」
「この跡、捲兄ぃがこの間つけてきた、愛の印しってやつと同じだ」
「お前、なにわけのわかんねぇこと言ってんの?」
「その人が好きだって思うとき、ありったけの想いを込めてチューすると、
愛のしるしってのが付くんだって言ってた!
お前、誰か他の奴にチューされたのか?」
「……はぁ……んなこと、あるわけねぇじゃん!」
「じゃあ、何なんだよっ!」
悟空はやきもちのあまり、半べそをかきながらナタクに飛びついた。
そして、その胸元に顔を埋めると、紅い徴のある場所に長いキスを落とした。
「ちょっ……ご……くぅ……?」
「オレのほうが、誰よりもいっぱい、い〜っぱい、ナタクんこと好き!
誰にも負けないんだかんなっ!」
「おい、お前、何泣いてんだよ……」
悟空の瞳は、何故か涙で溢れていた。
「だってさ、ほら、俺がここにチューしたら、同じの出来た……
ってことは、他の誰かに、俺がする前にされたってことじゃんっ!」
「んなこと……しらねぇよ……
それより、そんなこと、泣くほどの事かぁ?」
「泣くほどのことだよっ!
だってヤダもん!ナタクが他のヤツにチューされたり触られてたりすんの、
俺、ぜってー嫌だかんなっ!!」
「……ったく……俺だって、お前以外のヤツと、そんなことすんの嫌だよ。
そんなに疑うんだったら、お前が一番たくさんすればいいだろ?
そのチューってやつ……」
「ホンと? いっぱいしていーのかっ?」
「……ああ……」
さっきまで泣いていたはずの小猿は、急に元気を取り戻したと思うと、
嬉しそうにナタクに飛びついた。
そして今度はその唇めがけて、自分の唇を重ねだした。
はじめは僅かについばむ程度に……そして徐々に深く……
何度も唇を吸われるうちに、ナタクの方も悟空の柔らかい感触にのめり込む。
舌の先で軽く促されると、微かに開きかけた唇の間から、
悟空の舌がナタク口内に忍び込んだ。
「……んっ……ふうっ……」
どちらともなく甘い吐息が零れ出す。
次第に互いの舌を絡ませあい、その感触を求め合うようになっていた。
悟空の唇は、次第にナタクの身体の隅々まで確認するかのように、
下の方へと這っていく。
初めは耳を甘噛みするように、そして首筋、肩、胸へと場所を移動させた。
舌がゆっくりと円を描き、くすぐるようにキスを繰り返しては吸い上げる。
時折チリリと鈍い痛みが走ったと思うと、その白い肌に紅い徴を刻み付けていった。
『この徴……父上に見られたら、何て説明しよう?』
そんなことをまんじりと考えながら、甘い感覚に身を委ねる。
だが、今はもうそんなことはどうでも良くなってしまうぐらい、
自分の上に重なる悟空の身体の重みと、肌や唇の感触が心地よかった。
薄桃色の突起部に悟空の唇が及ぶと、思わず身震いしてしまう。
何度も舌で舐め返されるたび、
そこだけ妙に感覚が鋭くなっているように感じた。
「なぁ、ナタク……ここも……いい……?」
「……えっ……?」
次の瞬間、悟空はナタクの身体の真ん中にそそり立つ部分に、
こっそりと手を添え、上下に動かしだした。
「……うっ……!」
他人に触られる事などないその部分は、すでに敏感になっていて、
先端から薄く光る液体が滲み出ていた。
悟空は何の躊躇もすることなく、その液体を舌で絡め取ると、
今度は全体を口で覆い、器用に舌で先端部を刺激した。
「……くぅっ……おい、やめろよっ!
き、汚い……だろっ……」
ナタクの声を耳にしても、悟空はその動きを止めることはなく、
そんなことはないと上目遣いで軽く合図すると同時に、
より一層激しく口を使って愛撫し続ける。
それまで感じたことのない快感に、
ナタクは自分の感覚が全部そこに集中しているのがわかった。
「……やっ、だめだって……
それ以上したら……やばいって……」
下腹部に顔を埋めたままの、悟空の柔らかい髪の毛に指を絡める。
このままではマズイと思い、ナタクはその髪を掴んで引っ張った。
だが、わずかの抵抗では、悟空はその行為を止めてくれそうにもない。
なんとかしなきゃと思いつつ、ナタクの身体は麻痺してしまっていて、
上手く制止する術を知らない。
次の瞬間、ナタクは悟空の口の中に白い液体を吐き出してしまった。
「……くっ……はぁ……」
背中を仰け反らせ、身体を小刻みに震わせる。
その液体を搾り取るように、悟空は口を付けたまま出てきた液体を
ゴクリと音を立てて飲み干した。
「ちょっ……汚いだろっ……」
「んなことないよ……ナタクの身体から出てきたモンなら、
何でも平気……つーか、むしろ、好き……」
少し俯き加減に照れながら呟く悟空に、
ナタクは心からの愛おしさを感じていた。
今まで感じた事のない、心の温かさ……
いつもポッカリと穴の開いていた心の真ん中に、火を灯してくれたみたいだ。
それと同時に、もっともっと悟空を肌で感じたいという
渇望にも似た衝動が、自分の中にあることを知る。
「今度は、俺がしてやるよ……」
「や……いいよっ……!」
手にした悟空自身も、すでに見事に立ち上がっていて、
悟空が自分でこんなにも感じてくれていることが、
何だか気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
ふと口にした悟空の一部が、ドクンと脈打ち、より一層
大きくなるのを感じる。
くぅと小さくうめき声を上げたと思うと、
悟空は急にナタクに向かい、蒸気した声で言い放った。
「なぁ、俺、今日は我慢できそうにねぇや……
……ナタク……してもいいかな……?」
「……あ……う、うん……」
照れくさくて上手く返事が出来ずにいるうちに、
悟空は体勢を変え、あっという間にナタクの両足の間に滑り込んだ。
そして今度は、起用にナタク自身を手で愛撫しだしたと思うと、
その後方にある小さな蕾を、先ほどの愛液で丁寧にほぐしだした。
「ちょ、おまっ……そんなとこまで……」
「ちょっとだけ……ね、ちょっとだけ我慢して、
俺にまかせてくれる……?」
ねだられる様に熱い瞳でそう語られると、
ナタクにはその行為を中止させる理由がない。
恥ずかしさとは裏腹に、一度達してまた直ぐに元気を取り戻している自分に
悟空以上に自分自身も彼を欲して止まないということを自覚するばかりだった。
双つの丸みを撫で回すようにまさぐられ、
普段は触れることのない部分に舌を這わせられると、
身体中がどんどん熱くなってくる。
それはナタクにとって初めての感覚だった。
後孔に悟空の指がゆっくりと入ってくる。
初めは違和感を感じていたが、そのうち、ある部分にその指がふれると、
気が遠のいてしまうような感覚に陥る。
そのうち、悟空の指が抜き差しされる感触に、
奇妙な疼きを感じるようにさえなりだした。
息が上がり、切なくてどうしようもない。
それは悟空も同じで、今にもはちきれそうな己を抱えて、
苦しそうにしながらも、ナタクの身体を気遣ってくれているのが良くわかった。
「ご……く……もう、いいから……」
切なげな声で呟くと、悟空はコクリと頷きながら、
今度はその蕾の中に己を埋めだす。
「……くっ……はぁ……」
「ナタク……わりぃ……少し力……抜いて……」
「んなこと言ったって……うっ……ああっ……」
悟空が自分の中に入ってきた事を実感すると、
なんとも言えない充足感がナタクの中を満たしだす。
それと同時に、下腹部へと快感の渦が集まってきて、
ナタクは膝から下が溶け出してしまいそうな感触に襲われた。
少し筒悟空がナタクの中で動き出すと、
今度は途方もない快感に襲われて、すぐにも自分を見失いそうになる。
ナタクはそれが怖くて、
自分の上にのしかかる悟空の背中を思い切り抱えてちからを込めた。
「……んっ……ああっ……」
「くっ……ふうぅ……」
二人の声にならない声が空間を木霊する。
今まで何もなかった空虚な空間が、あっという間に二人の熱気で覆われていた。
繋がったまま、己を失ってしまわないように、
ナタク無意識に悟空の髪を掴んでは引っ張った。
それに応えるように、悟空のキスが戻ってくる。
息を弾ませ、悟空の愛情に揺さぶられながら、
ナタクは至福の熱に浮かされながら、無心で悟空の名前を繰り返した。
それに応えるように、ナタクの中で悟空自身もその大きさを増す。
「……ナ……タク……」
「……んっ……ご……くう……」
「……愛……してる……」
「……お……れもっ……」
甘すぎる疼きに、ドクンと身体が大きく脈打ったかと思うと、
ナタクは背中を大きく反らせては、その欲望を解き放つ。
その一瞬の締め付けに耐え切れず、悟空もまた、
己の愛情をナタクの中へと解き放った。
心も身体も深く結ばれた二人を、
部屋に掲げられた殷姫の肖像画が、ただ優しく見守っていた……